三位一体の人話

 
 大西巨人の『三位一体の神話』、当時は函入りの凝った装幀だったのよ。今になってやっと読んだけれども、凡百のミステリー作家の捨象した因果因縁の領域をこそ詳らかに構成して、俗物根性の塊である男に「他者」が迫り詰め寄ってくる過程を、論理的緻密さで描出する。ミステリーの物足りなかった部分を抽象化して小説を構築しているという凄み、新本格全盛期のころに読むべきだった、と改めて後悔することしきり。