今村昌弘『魔眼の匣の殺人』(東京創元社)レビュー


魔眼の匣の殺人

魔眼の匣の殺人


 いやー、バカウケのデビュー作より、数段こっちのほうがいいっすよ。新本格異世界路線の久々の特大ホームラン。まあ、〇〇殺人をめぐるロジック展開にやや難があるところがなきにしもあらずなんだが、猖獗を極めるラノベ崩れ本格を蹴散らす膂力があって痛快さ。でも受賞第一作がまかり間違っていればB級ミステリ作家のイメージが憑りついていただろうが、重量級の本作を物して、地歩を固めた感じ。

山田彩人『皆殺しの家』(南雲堂)レビュー


皆殺しの家 (本格ミステリー・ワールド・スペシャル)

皆殺しの家 (本格ミステリー・ワールド・スペシャル)


 お久しぶりの作者で、無理矢理気味のあるトリックミステリ連作として愉しめるが、作者の持ち味だった少々騒がしいユーモアはすっかり鳴りを潜める。この連作って、バカミスのスタンスで攻めるべきでしょう。大笑いさせてくれれば貴重だったのに、連作の最後の大団円はどうも尻すぼみ気味。作者のモチベーションがやや不明な感じだった。

鵜林伸也『ネクスト・ギグ』(東京創元社)レビュー


ネクスト・ギグ (ミステリ・フロンティア)

ネクスト・ギグ (ミステリ・フロンティア)


昨年評判を得たデビュー作。サブカルをテーマにした作品は、総じて深く掘ったものになればなるほど小説の器は小さくなるものだが、この作品もそのきらいがある。物語の構成が、バンドメンバーや関係者それぞれの音楽観(ロック観)を数珠つなぎにしたような、平板な印象を与えるのは、作者の内であるべき音楽小説の型が強固すぎるせいかも。もう少しスリリングにいけなかったもんかな、と。

 

山本巧次『開化鐵道探偵 第一〇二列車の謎』(東京創元社)レビュー

 
 シリーズ第二弾。脱線した貨車から千両箱が発見されるという惹きつけられる導入から、江戸幕府の隠し金の争奪戦に主人公たちが巻き込まれるスリリングな展開、謎解き要素を巧みに撒き散らせつつ、活劇調のアプローチも目論んでいる。大団円はやや尻すぼみ気味だけれども、リーダビリティは抜群で、草創期の鉄道をめぐる陰謀的世界に身をゆだねることができる。                               

中山七里『静おばあちゃんと要介護探偵』(文藝春秋)レビュー


静おばあちゃんと要介護探偵

静おばあちゃんと要介護探偵

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 社会派ミステリをマンガ的な勧善懲悪ドタバタ路線へと折衷させてみせたのは作者ならではという感じで、やや荒唐無稽なトリックや論理展開の違和感をやわらげる。第三話と第四話の重層的プロットが本格読みのツボにハマるが、最終話の大団円はお約束の温もりを楽しがれるかどうかで評価は分かれるだろうが。

芦辺拓『少年少女のためのミステリー超入門 』(岩崎書店)レビュー


少年少女のためのミステリー超入門

少年少女のためのミステリー超入門

 
 いいっすねえ。芦辺拓くらいになるとミステリ愛好家を超えて、ミステリ文化伝承者といったような格だからね。しかも児童文学の老舗からのミステリー・ガイドブックということで、チョイスがなかなか唸ってしまうやんか。羊沈ぶっこんだのはよい教化手段やんか。ただよい子をミステリ業界に誘い込むにはまだ弾数が足りぬので、第二弾を望みたい。                           

降田天『すみれ屋敷の罪人』(宝島社)レビュー


すみれ屋敷の罪人 (『このミス』大賞シリーズ)

すみれ屋敷の罪人 (『このミス』大賞シリーズ)

 
 デビュー作はつまらなそうな梗概だったのでスルーしたけれども、いつのまにか短編で推協賞を受賞したということだったので、受賞後第一作である本作を手に取る。舞台設定が凝ってる分、読み手も身構えてしまうだろうが、あらまほしきたおやかさは味わうことはできる。まあ意外性は担保されてても。カタルシスの方向性は予想つきそうな、というか。