太田忠司『レストア オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿』(光文社カッパノベルス)レビュー

レストア  オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿 (カッパ・ノベルス)

レストア オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿 (カッパ・ノベルス)



ミステリアス
クロバット
サスペンス
アレゴリカル
インプレッション
トータル35


 『2006本格ミステリ・ベスト10』のアンケート回答のコメントで、「本格ミステリとしてなら間違いなく上位にランクされるべきだけど、(中略)十五年この仕事をやってきて築いてきた倫理観に照らし合わせて、それらの作品をベストに挙げることはできませんでした」と述べた作者のスタンスに関心を寄せるのは、創作における“モラル”に共感を覚えるというよりも、むしろこれが創作上の特殊な“コード”として機能することで、<本格>のスタンダードとはどこか違った物語が生み出されるのではないかと、期待するから。――その点、この作品は、個々の話のプロットが直線的にすすむ味気なさはあるのだけれども、全篇を蓋うある種の透明感は、レトリシズムにのみに還元できないものがあり、これを作者のとっているスタンスの故だと思いたい。――新本格におけるPI路線をゆく書き手としては、法月綸太郎に次ぐ存在の作者、ロスマクの“透明感”(=「透明な諦観」by権田萬治)にも漸近してほしいと思うのだけれども。