岸田るり子『出口のない部屋』(東京創元社)レビュー

本日のエピグラフ

(前略)他人の存在が地獄ってわけだ。あんたたちが僕にとっての地獄。それが永遠に続くってことなんだ。(P161より)

出口のない部屋 (ミステリ・フロンティア)

出口のない部屋 (ミステリ・フロンティア)


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス8 
アレゴリカル8 
インプレッション8 
トータル40  


 作者の鮎川哲也賞受賞のデビュー作『密室の鎮魂歌』は、いかにもという感じの密室トリックの釣瓶打ちのあざとさを、一幅の絵画をめぐる強烈な謎と、欲得と打算を基調にした巧みな人物造型がそれを払拭していて、新人離れしていた。特に、半端なカタルシスを寸断するような唐突なラストは見事だった(蛇足だけれども、タイトルは「汝、レクイエムを聴け」のほうが絶対いいと思う)。――そして二作目の本作も、心理的な穿鑿と物語のネタ割りが振るっていて、飽かせない。……というか、最初はアルレーオマージュかと思ったんですが、だんだん折原一っぽくなってきた(笑)。この叙述展開のこだわりも、“新本格”のルーティンを踏まえている意識なのだろう。……フレンチは、もうすこしあっさりしているもんね。――作品に伏在するテーマはカニバリズムで、それが性的なフェティシズムから復讐的儀礼に位相を変容させる過程を描いたということでは、一種の「成長小説」でもあるのだ――まさに、探偵小説でしか描き出せないものとしての。…………この作者は、フランス系ミステリというよりも、戸川昌子の切り拓いた路線を継承していってもらうとともに、レンデル、ウォルターズにもタメはってほしいものと思っているんですが。