天樹征丸『東京ゲンジ物語』(講談社)レビュー

東京ゲンジ物語

東京ゲンジ物語


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス7 
アレゴリカル7 
インプレッション8 
トータル38  


 ワタクシ的には好感触。サイコサスペンス連作としての興趣を強く打ち出したせいか、五編中の中三編におけるトリックなりサプライズの扱いがややフラット。ここのところ、もっとドラマティックに、というかもっとねちっこく描けば、乙一の名作『GOTH』に匹敵する<本格>になったかもしれない。――本作で、フォールス・メモリーが扱われているけれども、“偽記憶”のいわば無底性は、“メタレベル”の無限階梯化、“倫理”の無根拠性とならぶ、「何が<リアル>か?」をめぐる不気味な“問い”として、これから前面化してくるだろう。これに探偵小説、<本格>がいかに対処するのか、――とりあえず、「“偽記憶”本格」なるものが、もっと出てこないかな。