鮎川哲也『山荘の死 鮎川哲也コレクションⅠ』(出版芸術社)レビュー


 
 名作幾度目かの復活に、ひたすら涙するこの私。――集英社文庫版『ヴィーナスの心臓』所収の「達也が嗤う」「薔薇荘殺人事件」等を読んで、ここまでするかと呆気にとられたけれども、とりわけ「達也が嗤う」は、このエディションで復元された他のテクストを併読して、度肝を抜かれた。創元推理文庫版『下り“はつかり”』の巻末座談会で山口雅也が、朗読用テクストであることを「念頭において仕掛けているよ」と指摘しているけれども、実際は“作者”と「朗読者」が共犯して、「立体演出」を企てた、その痕跡がこの小説だったのだった。…………なんと“作者”は生き生きとしていることか! ――というわけで、生ける“作者”たる鮎川哲也の名ゲームプレイヤーぶりを改めて堪能したい。