松尾由美『ハートブレイク・レストラン』(光文社)レビュー

ハートブレイク・レストラン

ハートブレイク・レストラン


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス7 
アレゴリカル8 
インプレッション8 
トータル39  


 ハートブレイク・レストランなんていうもんだから、全く別の作品かと思ったら、なんだ「隅の婆ちゃん」シリーズでないの。……と、個人的には呼んでおったわけです。「隅の老人」に引っ掛けて。ま、確かにタイトルは内容から見て、さほどかけ離れているとはいえないけれども、んー、ミステリの匂いを脱臭したような、あからさまにF1向けのこのネーミングといい装丁といい、んー、ミステリ冬の時代をひしひしと感じさせますわなあ。タイトルは失恋レストランと訳しちゃ怒られるんでしょうか。
 作者の近作には<幽霊>をフューチャーした作品がいくつかあって、『銀杏坂』では、<幽霊>をはじめ超常現象の数々が、探偵小説における情感を巧みに増幅させる効果を担い、『雨恋』では、情感の演出という側面もさることながら、<幽霊>の存在の有様が、探偵行為のモチベーションに寄与する設定がユニークだった。本作の<幽霊>は、<名探偵>。<幽霊>が探偵となって事件を探る設定は数多あるが、本作では<幽霊>の秘められた心意が、隠された謎として埋め込まれている。<幽霊>の動機が明かされた後でも、<幽霊>は自身が一体どういう人間に見えるか見えないのかについて、自分もわからないと煙に巻くのだが、<幽霊>が選んでいるのかそれとも選ばれているのか判然できない、突然の出現の不条理性が、コミュニカティヴな関係性における<他者>と、<幽霊>は類比できるのだろうと思う。
 いやしかし、それよりも何よりも、ミタムラ工業の二代目社長サンである。発明王キャラはベリナイスであります。「走る目覚まし時計」「走る俳句ロボット」、なんてシュールだ。願わくば、この社長サンの珍発明品をフィーチャーしたミステリ連作なんて、できませんかねえ。