鯨統一郎『パラドックス学園』(光文社カッパノベルス)レビュー

パラドックス学園  開かれた密室 (カッパ・ノベルス)

パラドックス学園 開かれた密室 (カッパ・ノベルス)


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス6 
アレゴリカル7 
インプレッション7 
トータル36  


 基本的には、“メタミステリ”のパロディ、というかファルスだと思うんですよね、この作者の「学園」シリーズって。だからって、例えば山口雅也の『ミステリーズ』で試みられた実験を、矮小化しているわけではないんですが。――辻真先ソノラマ文庫の初期三部作(今は創元推理文庫収録)に初めて接した読者は、何だか今読んでいる「本」そのものが、自己主張し始めたような、奇妙な感覚にとらわれたと思うが、テクストを「黙読」することを通じて、自己の「内面」なるものを育ててきた近代の読書人の、その「内面」の小宇宙に、ふいに亀裂が入るのだ。その「本」が、単に物語世界を内包し、あるいは単に活字に定着させることで物語世界を顕現させる機能しか持たなかったのが、思わぬ意味性を帯びさせられる――いわば、<他者>化するといってもいいだろう。その「本」が、今まで馴染んできた<本>として機能から逸脱する。
  本作は、これらの達成を踏まえた上での、更なる戯作だが、前作『ミステリアス学園』の続編でもあるから、読者はいやがおうにも身構えてしまう。……と、そのスキを衝いて、サプライズを仕掛けたのは、技あり。で、最後に明かされる“意外な犯人”は――うーん、いろんな意味で、涙ぐましいなあ。“メタミステリ”だのなんだの言っても、<読者>がいなきゃしょーがないもんね。でもさ、作者がパラドックスのアクロバットをいろいろと張り巡らせているうちに、某超有名ホラー作品と、アイデアが近接してきたのは、逆説ならぬギャグの一環なのでしょうか。