北村薫『紙魚家崩壊 九つの謎』(講談社)レビュー

紙魚家崩壊 九つの謎

紙魚家崩壊 九つの謎


 
ミステリアス8 
クロバット7 
サスペンス8 
アレゴリカル9 
インプレッション7 
トータル39  


 この作者が、“日常”というものに対して、その小宇宙の成り立ち、在りように、いかに鋭敏な感覚を働かせているかがわかる。「溶けていく」「俺の席」はその“世界”が割れていく過程を綴り、逆に「白い朝」は“世界”が結晶するその瞬間を、これ以上なく鮮やかに切り取った、名作。“日常の謎”の物語が、その絵解きそのものが、一編の小説としてのカタルシスにまでたかめられている。そして、佳品「蝶」では“世界”の“裏側”を不気味に喚起する。――「新釈おとぎばなし」は、編集者はもっと続編を書かせましょう。