海堂尊 『チーム・バチスタの栄光 』(宝島社)レビュー

チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス8 
アレゴリカル7 
インプレッション8 
トータル39  


 ここまで軽妙なノリで展開するメディカル・スリラーも稀だろうと思わせる。帚木蓬生の重厚なそれとはまさに対極を示すのだけれども、従来の医療ミステリのスタンスに対抗しているようで、その心意気やよし、新人のカミの一作としては、花マルである。横山秀夫が『震度0』で、馴染みの警察組織をかなり辛辣にカリカチュアしていたけれども、本作にもそれと似た印象を覚える。おそらくは、現職医師であるだけに、物語中のモデルの元型を探られるのを回避するために、ある程度の虚構性が要請されたという事情があるのだろうが、それ以上に、物語のスタンスにおいて、重要な示唆を与えているようにおもう。「病院」といったら、まさしく“生‐権力”体制の象徴的存在であるけれども、近年、「安楽死」(若しくは「尊厳死」)についての医療倫理が模索されるなか、果たして、“生‐権力”が積極的な“死”を取り入れることで、これがどのように変容するのか。“死”を与える権力は前近代の王が占有していたが、つまりは、「病院」という領域が“生‐権力”下の前近代的権力の装いを帯びてしまうのか。犯人役のチープな独白と、一連の「事件」の収拾のされ方は、“生‐権力”自体をおちょくっているのだろうが、もしかしたら、“生‐権力”という近代プロジェクトが綻びつつあるのを、精確にトレースしてもいるのだろう。