芦辺拓『探偵と怪人のいるホテル』(実業之日本社)レビュー

本日のエピグラフ

 「……いかがです、ご自分の姿をフィルムで見た感じは?」(「屋根裏の乱歩者」P267より)

探偵と怪人のいるホテル (幻想ミステリ作品集)

探偵と怪人のいるホテル (幻想ミステリ作品集)


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス8 
アレゴリカル9 
インプレッション8 
トータル41  


 これも『異形コレクション』絡みなんですよね。今年は朝松健の『東山殿御庭』もあるし。ナラティヴの可能性を、反ナショナリズムの戦略に用いるのは共感できるのだけれども、ネーションの成立もまたこれなしにはありえなかった。だから芦辺拓は不用意だというのでは全然なく、なんとなれば柄谷行人の言うように「近代文学」は終わったのだから。ネーションの現在に視覚表現・映像メディア(とそれの“ノベライズ”)が中心的役割を果たしているのならば、むしろ「講談」、“語り”=“騙り”のダイナミズムは、これに亀裂を入れる役割を十分に果たすだろう。――「伽羅荘事件」は、鮎哲に捧げるレクイエムだけれども、探偵小説に関しては“作者の死”はあり得ない。なぜなら“騙る”という行為そのものは差異化できないのだから。絶対に。