大沢在昌『狼花 新宿鮫Ⅸ』(光文社)レビュー

狼花  新宿鮫IX (新宿鮫 (9))

狼花 新宿鮫IX (新宿鮫 (9))


 
 『風化水脈』あたりから、都市論ミステリの構図をも視野に収めはじめてきたけれども、作者の選択は、圧倒的に正しい。警察内部でのサバイバルから、<正義>の正統性をめぐる闘争へ。一体どのような行いが<正義>とされるのかは、最終的に社会システムにジャッジされるしかない。あるプランの実践が、どのような現実を結果するのか。その熟考は、己が内の“大義”が未来に裁かれる姿を想起させるものだろう。要は、行動倫理が不断に鑢にかけられているという点で、安直なヒロイズムとは一線を画しているのだ。作者は、このシリーズをまた一歩進ませたと思った。