探偵小説研究会=編・著『2007本格ミステリ・ベスト10』(原書房)レビュー

本格ミステリ・ベスト10〈2007〉

本格ミステリ・ベスト10〈2007〉



 本ミス十周年の節目、いやはや今年は接戦でした。上位五作は順位があって無きが如しですね。こんな状況に、未集計回答が5票あるとは…………順位の変動について杉江松恋さんが気にされていたけれども、ま、今年は、上位五作みんな1位扱いってことで…………ちゅーか、オデが少数意見でなくてよかったよおおお。いやもうホントに。――ベスト20ランクイン作品はすべて既読。私メがこれらの作品に勝手につけた評点の、その平均をとってみると、

42.1


 ということで、このラインナップには満足っす(あ、一作だけヒミツにしてるものがありますね。最高点、ということで)。オールベストの方は…………あれ、過去のベスト20のなかから選ぶんじゃなかったの? なあんだ、だったらもうちとウケねらいのセンを狙うんだったなー、とネット投票のコーナーを覗いてみて、腰を抜かすわけですよ、オデ。…………円堂都司昭さん、駄文を採りあげてくださって、ありがとうございました。――で、円堂さんといえば、島田荘司インタビューも担当しているのだけれども、杉江さんの言うとおり、これはモノローグというべきもので、弁舌を振るう御大もさることながら、完全に黒子に徹しているインタビュアーもすごいです。――このインタビューを読んで、島田のパフォーマティヴな振る舞いのモチベーションは、<市場>へのアプローチということにあるのだな、と改めて実感。この姿勢は、終始一貫している。そしてこのことが、「「容疑者X」論争座談会」における問題意識(のひとつ)にも繋がってくるわけです。ただ、「それよりも早く創作しましょうよ」ということが「流通形態だって危ない」という現状に対する島田的な提案であるとするならば、やはり心許ない感が否めない。早い話が、供給を増やしても需要が縮んだままだったらば、あらかじめから「敗北」は決しているわけで、いま必要なのは“需要”の開拓なのではあるまいか。この「“需要”の開拓」については、推協なりHMCなりの“政治的”活動の賞揚をはじめとしていろんなことを言いたいわけですけれども、とりあえず指摘したいのは、以下のこと――もはや古典的名著ともいうべき高橋哲雄『ミステリーの社会学』より抜粋…………
 「ここで注目したいのは“ゆとり”である。精神的、経済的、時間的なさまざまのゆとりにめぐまれた階級がミステリーの享受に適合的な土壌を提供してくれるのではないかと考えられるからだ」。このあと、高橋は十九世紀中葉からのイギリスの産業史を概括して、ミステリー読者として、「“強制された余暇”をもつ社会層で、この時期に急膨張し」た「通勤客」=郊外住民と「家庭に閉じ込められた」専業主婦という二つの社会層を挙げこれらに言及するが、その狭間に、ちょろっと以下の言及があるのです…………年金生活者は重要な潜在的読者層である。イギリス人の理想のひとつに、引退してミステリーを楽しむ生活があるといわれるほどだ。もっとも老人は一般に保守的だから若いときからミステリーの味を知っているということが必要だろう。そうであれば、老人人口の比率の高い国では彼らの趣味に叶ったタイプのミステリーが一定の市場を得る可能性はある」。
 …………さあ、お立会い。近い将来、日出づる処の吾が國に、年金生活とやらが大量に出現することに相成るわけですが、この者たちを称して何と呼んだか。サンハイ、団塊の世代。――では、この世代に該当する<本格>の紡ぎ手は誰がいる? せーの
島田荘司笠井潔連城三紀彦野崎六助北村薫…………あと、“団塊”ってことでは赤川次郎も忘れちゃいけないんだけれども、ともあれ、こういうことなんス。――いや、ラノベ的なるものを全然(絶対)否定はしないけれども、そのなんですか、ミステリーにおける<市場>(=“需要”)性を問題化するのならば、ですね、この団塊の世代に対して、何らかのアプローチというかアクションというか、そういうものが必要なのではないかと、オレはそういうふうに思うわけですよお客さん! ってサンボ山口調で勢い付けてもしょうがないんですけれども。…………ベスト30の内容の分析については、また後日。