『SIGHT』VOL.30 2007冬

SIGHT (サイト) 2007年 01月号 [雑誌]

SIGHT (サイト) 2007年 01月号 [雑誌]



 魯鈍な“右翼”とうんざりするような“サヨク”の狭間に、渋谷陽一がたちあげたリベラル・オピニオン誌『SIGHT』。――といきごまなくても、年末恒例「ブック・オブ・ザ・イヤー」を読みたかったからなんですが、いやいや特集がナイスでした。特筆すべきは、小林節のハジケっぷり。いやもう面白かったなあ。特に、「環境権」「プライバシー権」の新設、という“改憲”の口実について、「実はね。というか、最初の改憲論議のときに、このカモフラージュを持ち込んだのは僕です」。――こういうナマの声によるニュアンスを伝えるのが、イマの論壇に欠けてるんだよね。インタビュー記事を中心に据えるのは、海の向こうじゃオーソドックスだけれども(雑誌は“紀要”じゃないんだから)、この方向性を今後も維持してね。…………新左翼のことを「珍左翼」と呼んで揶揄したのは呉智英だけれども、このひそみに倣うのならば、いまどきのホシュは、新保守ならぬ「珍保守」。「珍保守」憲法草案の、近代立憲主義に悖る無惨さの拠って来るところは、その中核支持層、60〜70歳代と20歳代のメンタリティにある。早い話、前者は「年金逃げ切り世代」、後者はロマン主義シニシズム、まあ、“未来”に対してコンストラクティヴに振舞いませんがね。――ただ、気になるのは、それでも女性の支持が「珍保守」に結構あるんだよね。小林が指摘するように、「「国家の責務として家族を保護する」。夫婦は勝手に別れるなということで、理論上、離婚が犯罪になりかねない」。“女”は囲いこまれるぞ。――あと、小熊英二の「今の保守派の人が懐かしんでいるのは、本当は戦前の日本じゃなく、この時代だと思います」として挙げるのは、実に1975年、昭和50年。このロジックには唸らされた。目からウロコ、さすが『単一民族神話の起源』の著者! 是非当該記事を読まれたし。…………あと、藤原帰一はあいかわらずクールだし、酒井啓子はしたたかだし、高橋源一郎は老獪だよなあ。――ブック・オブ・ザ・イヤーはもうどうでもいいや。