津原泰水『ピカルディの薔薇』(集英社)レビュー

ピカルディの薔薇

ピカルディの薔薇



 基本的には、怪奇小説というのは、「物自体」が五感を通して“こちら”側の意識へ侵してくる効果を狙った小説だと思うのですが、作者のこのあたりの手続きは周到。「フルーツ白玉」なんてニヤニヤしましたもん。「甘い風」では音楽小説が訓話になる。「籠中花」はオーソドックスに愉しめるかな。中井英夫トリビュート「ピカルディの薔薇」は、「物自体」へのエロス的志向を、回帰的に「物自体」へと葬送する企み。これ以上ない追悼だろう。