泡坂妻夫『揚羽蝶』(徳間書店)レビュー

揚羽蝶

揚羽蝶



 もう完璧に枯淡の境地。『春のとなり』の思わせぶりのなさにも戸惑ったけれども、本作品集の恬淡とした話の運びに接すると、あの『折鶴』『蔭桔梗』のソリッドな小説世界からさらに削れるものは削ってきたのだなあ、と呆気にとられる。紋章上絵師の日常の哀歓と、奇術師たちの織り成すちょっとした悲喜劇。前者は中間小説風、後者は“奇妙な味”系に傾いているのはむべなるかな、と思うけれども、青瀬勝馬先生を主軸に据えた探偵小説連作はやってくれませんかねえ。