野崎六助『オモチャ箱 安吾探偵控』(東京創元社)レビュー

本日のエピグラフ

 坂口安吾はそれを、他人の言葉であるかのように語り、かつ自分の耳に聞いていた。(中略)彼のなかのからくり仕掛けがどうしたはずみにか動きだしたといえばよほど事実に近いのだけれど、ではそのからくり仕掛けとはそもそも何ぞ。(後略)(P339より)

オモチャ箱 安吾探偵控 (創元クライム・クラブ)

オモチャ箱 安吾探偵控 (創元クライム・クラブ)


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス8 
アレゴリカル9 
インプレッション8 
トータル41  


 戦後文学の巨人=虚人として屹立する安吾を、作者は『安吾探偵控』三部作で反=ビルディングスロマンとして描き切った。<戦争>とは、まさしく「教養小説」的予定調和を破壊する<出来事>ではあるものの、<戦争>以前より“虚”を抱える者にとっては、逆説的に、その“意味”を空ろにしたまま、“出来事”の内実を充填する<出来事>であるのだろう。それでは、この者たちの“戦後”は如何。「催眠術」。このコトバの、“意味”の空ろさ。だからこそ、圧倒的空虚の“意味”たり得る。「無意味」という“意味”。しかしそれは、かりそめの、混沌の整除付けの応急措置にほかならず、「オモチャ箱を叩き壊せ」というシグナルは、<現実>から響いてくるのだ――安吾の<ふるさと>から。