仲正昌樹『日本とドイツ 二つの全体主義』(光文社新書) 『集中講義! 日本の現代思想』(NHKブックス)レビュー

日本とドイツ 二つの全体主義  「戦前思想」を書く (光文社新書)

日本とドイツ 二つの全体主義 「戦前思想」を書く (光文社新書)

集中講義! 日本の現代思想 ポストモダンとは何だったのか (NHKブックス)

集中講義! 日本の現代思想 ポストモダンとは何だったのか (NHKブックス)



 
80年代の「新書戦争」といえば媒体を「ノベルズ」にしたミステリーや伝奇小説をメインとしたものだったけれども(これがなければ、「新本格」ムーヴメントが起こったかどうか定かではない)、今の「新書戦争」といえば、まさしく「新書」を舞台にした“大衆”啓蒙書による書店の(または図書館の)棚の争奪戦である。そんな状況のなか、2006年は仲正昌樹(とあと香山リカなんか)はバリバリ書いてくれました。まさに「月刊仲正昌樹」状態と言いたくなるけれども、宮崎哲弥が言っているように、どれを読んでも“ハズレ”がない。内容の質とか精度の良し悪しを測れるはずもなく、要するに、“現在”的な関心と照らして、いかに“啓蒙”してくれるか、という見地から、ジャストな仕事をしてくれている(その期待に応えてくれている)ということである。…………『日本とドイツ 二つの全体主義』は、同新書の『日本とドイツ 二つの戦後思想』の続編にしてこの“前篇”というややこしい意味合いを持つもので、当然、このふたつをセットにして読まれたいけれども、だけれども、年末に出た『集中講義! 日本の現代思想』も併せて読むと、真の「“戦後”思想」、即ち、「“戦争”批判」=“戦前”批判プラス「現代思想」=マルクス主義の帰趨と「構造主義」の台頭という思想史的文脈が、まったくもって手に取るように把握できる。仲正とアレな関係になってしまった北田暁大の『嗤う日本の「ナショナリズム」』で、「現代思想」に関心を持った読者には、強くオススメしたい。…………著者は、『日本とドイツ――』の「エピローグ」で、「言い訳めいた」ことを記しているのだけれども、ある思想史(の叙述)において“細部”に拘泥するのは、自らの専門領域や研究対象に抵触してくれば当然だろうと思うけれども、その結果として「思想史」の叙述自体に多大なる“コスト”がかかるようであれば、研究者はもとより、“啓蒙”を望んでいる未知の読者にもそれは不幸な事態である。このことが、「人文(科)学」の凋落を招きかねないのは火を見るより明らかだろう。著者は、このような硬直した状況に無反省のまま、「左旋回(=転回)」する「現代思想」の知識文化人たちに、苛立ちを隠そうとしない。“学際”的メディアである「新書」が、この状況に穴を開けるのか、それともまたタコツボ的に“知”を消費していくだけなのか。…………著者には、「フランクフルト学派入門」みたいなものを書いてほしいけれども。