松尾由美『九月の恋と出会うまで』(新潮社)レビュー

九月の恋と出会うまで

九月の恋と出会うまで



 
 涙腺の蛇口をゆるませるまでの物語の進ませ方に、間然するところなし。自己の行為が<他者>に意味あるものとして定位されうるときに「愛」は成立するが、相手の行為が自己という意味そのものに欠かせざる要素として定立されるとき、<他者>に対して根源的に“待つ”存在でしかない主体にとって、それは「奇跡」と呼ばれるものでしかありえないだろう。