上遠野浩平『酸素は鏡に映らない』(講談社)レビュー

酸素は鏡に映らない (ミステリーランド)

酸素は鏡に映らない (ミステリーランド)


 

 “不気味な泡”のかわりに、元「ヒーロー殿」が、幻の金貨をめぐる争奪戦の渦中に巻き込まれる。誰もが「世界」の(未遂の)支配者であるなら、“システム”は「世界」よりも、より複雑な相貌を帯びて、ハンドリングの不能性が迫り出してくるものになるのだろう。作者が、「セカイ系」と一線を画すのは、“システム”の不可視性からくる不安を、不可視性を維持したまま、それをある種の官僚機構として顕現させた点で、それはやはり時代の逼塞した空気と合っていたのではあるが、ブギーポップが出現してもうすぐ十周年、“システム”の眼前で諸「世界」をいかように氾濫=叛乱させるのか、興味深いところ。