恩田陸『朝日のようにさわやかに』(新潮社)レビュー

本日のエピグラフ

 こちらこそ助かったよ。学園の平穏を乱す人間は消えてもらった方がありがたい。(「水晶の夜、翡翠の朝」P48より)

 城は落ちた。その人々は、今も彼女から遠く離れたところに棲む。(「邂逅について」P176より)

朝日のようにさわやかに

朝日のようにさわやかに


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス
アレゴリカル9 
インプレッション9 
トータル42  


 作者の小説世界において、クローズド・サークルを成立させているエートスのありようが、直截的に切り出された感じ。作者において、“境界”という意識は、創作の重要なモチベーションになっているのだなあ、と思うけれども、例えば綾辻行人のそれは“環境”の差異性が基底にあるのに対して、作者のは脱社会的な強度にかかわっているのではないか(そして石持浅海のは共同体主義的な倫理性ということになるのだけれども)。『ABC殺人事件』トリビュート「あなたと夜と音楽と」は、作者もリスペクトする島荘の名篇「糸ノコとジグザグ」の返歌としてもあるのだろう。表題作は、私小説フェイクの系統の佳作。