新津きよみ『悪女の秘密』(光文社文庫)レビュー

本日のエピグラフ

 いきなり警察に行き、あんな動機、、、、、を述べても、誰も信じてくれるはずがない。(「彼女の一言」P221より)

悪女の秘密 (光文社文庫)

悪女の秘密 (光文社文庫)


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス8 
アレゴリカル8 
インプレッション9 
トータル41  


 満足しました。国産ドメスティック・スリラーを背負って立つ作者の、小説の巧を満喫できる全十一編。変型サイコ・サスペンスを引退刑事のプライベートストーリーの額縁で囲んだ「頼まれた男」は、ブラック・ユーモアとリリシズムが並置されてシュールな味わいを醸しだす。「傷自慢」「彼女の一言」は、重層的なプロットが冴える好編。「二人旅」は王道の心理サスペンス、「うわさの出所」「どこへ」そして表題作は作者の真骨頂でしょう。“日常”の裏側に潜む“秘密”を知ったあとの、その当事者が漏らす一滴のパトス、ほんのわずかな述懐が、“小説”の色合いを変える。その瞬間が、どんなサスペンスの装置よりもまして、スリリングであるわけだ。