有田哲文 畑中徹『ゆうちょ銀行 民営郵政の罪と罰』(東洋経済新報社)レビュー

ゆうちょ銀行

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2005年の「郵政選挙」のとき、「八年以内に残高を半減させる」という郵政リストラ案を提示したのは、民主党である。これに対して、「八万人の首切りプランだ」と反論したのは、当時郵政民営化担当相だった竹中平蔵だった。彼は、国鉄民営化の二の舞を避けるべく、全郵政職員の雇用を守る、という腹心算だったのだ。――「三八万人の公務員が、民営化されれば民間人になる」と、小泉純一郎は唱えたが、旧郵政公社は独立採算制、国家財政の収支改善に何ら寄与するものではない。小泉自民大勝後、郵政民営化法案を一度否決した参議院は、再提出された同法案を可決。寝返った議員は、民意を汲んだというより、郵政会社の規模の縮小はしないとの密約を取ったのではないか、というのは私の忖度だけれども、かくして、貯金残高200兆超の金融モンスターが、その巨体をふらつかせながら、青息吐息で闊歩しだす…………「郵政民営化」をめぐる栄光と蹉跌のドキュメント。話は、旧郵政公社日本郵政株式会社における、ふたりの「司令官」の相克に収斂するといってもいいだろう。海運業界出身の生田正治は、「健全なスリム化」を通して、郵政の孕むリスクを軽減させ、郵便局制度の改革を志向したのに対して、元全銀協会長の西川善文は、全銀協時代に郵貯に対する懸念を表明してきたのを、180度転換して、巨大郵貯の現状を維持したまま、さらなる事業拡大を目指すスタンスを取る。生田が“改革”のため、特定郵便局と対立していたのを、西川は目的のために関係を修復させる。彼には、銀行界のトップとして、その最後を思うように飾れなかったトラウマがある。要するに、巨大郵貯の実権を握ることで、金融界にリベンジを果たそうとしているのではないか――「民営化」、英語では、「privatization」、これには公的な物事を私物化する、という原義がある。「郵政民営化」とは、まさしく各関係者が、「郵政」マターを「私物化」した、と思われても仕方ないような紆余曲折を経ているのを、本書はまざまざと見せる。しかも、郵政の外部的には民業圧迫、内部的にはその収益構造や、保有資産の金利の孕む、さまざなリスクを抱えている。事業拡大といえども、住宅ローンや国際物流分野など新規参入の困難さは、すでにあからさまであるが、私が気になるのが、郵貯消費者金融化だ。「郵貯」のブランドに目眩まされて、とくに低所得の高齢者層がカモられるのではないかというのは、率直な懸念である。同じことは各種金融商品の販売にもいえるわけで、トップがトップだけに杞憂なしとはいえない。…………さて、肝心要の「外資」の件。日本における保険の「第三分野」は、外資系の「特別区」だけれども、生田が「第三分野」参入を仄めかすと、向こうの高官が飛んできて、プレッシャーをかけたのだが、いずれにせよ、「郵政民営化」を賞揚しながら、一方で「簡保封じ込め」を画策するとは、まさに「privatization」というしかない。