2007年下半期本格ミステリベスト5

 気がつけば、幕の内、成人式を過ぎておったわい。2007年5月〜10月の下半期は上半期の不振を挽回した感あり。読み残しは、おいおいエントリすることにして…………

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)



第1位:有栖川有栖『女王国の城』
 おめでとうございます。この作品は、実は有栖川版『霧越邸殺人事件』であったというのが、私の見立て。超越的要素に対する態度は、綾辻行人と真逆だけれども、これは“時代”の意識の変容というのも、当然あるのではないか。『双頭の悪魔』「スイス時計の秘密」とロジカル・パズラーの頂点を二度極めた作者は、本作では、“時”の要素を導入して、論理による抽象画を描いて見せる。
 
密室キングダム

密室キングダム


 
第2位:柄刀一『密室キングダム』
 密室づくし、本格づくし。歌野晶午『密室殺人ゲーム王手飛車取り』と読み比べるのも一興。「劇場型犯罪」は、もはや懐古的な領域のお噺にすぎぬか。
 
リベルタスの寓話

リベルタスの寓話



第3位:島田荘司『リベルタスの寓話』
 結局、このひとは知的に貪欲である、ということにつきるよね。で、このことが、表象的なグロテスクさの追求にもなっているわけで、作者の紡ぐ異形の風景をますます味わいたくなる。
 
インシテミル

インシテミル


 
第4位:米澤穂信『インシテミル』
ある“論理”を極限までつきつめるために、クローズド・サークルは構成される。目論まれるのは、サスペンスの効果だけではなく、“逆説”のリアリティを現前させるためでもある。これが、新時代のリアルでもあるのだが。

離れた家―山沢晴雄傑作集 (日下三蔵セレクション)

離れた家―山沢晴雄傑作集 (日下三蔵セレクション)



第5位:山沢晴雄 日下三蔵・編『離れた家 山沢晴雄傑作集』
 探偵小説の精神性は、「作者=犯人」の等式に、亀裂をいれるところにある、と作者は確実に考えているはず。<作者>という予言者が、“物語”を統べるかぎり、テクストは古びないのである。

 

ラ・ロンド―恋愛小説

ラ・ロンド―恋愛小説



番外:服部まゆみ『ラ・ロンド』
 藤原伊織打海文三服部まゆみ、と本年はまだ第一線で活躍している書き手が相次いで他界した。極めつけは、西村寿行天城一。ご冥福をお祈りします。当ブログでは、服部作品を再掲することで、追悼に代えたい。