吉本隆明『日本語のゆくえ』(光文社)レビュー

日本語のゆくえ

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 最近ではあの『情況への発言』が復刊されて、ロッキンオンの『吉本隆明 自著を語る』ともども、吉本思想の回顧というか総点検というか、そういうものの需要が高まりつつあるのかなあ、と思う(高澤秀次吉本隆明―1945-2007』はまだ未読)。本書も、意地悪くいえば、往年の思索の再使用、といえなくもないけれども、『言語にとって美とはなにか』『共同幻想論』あるいは吉本の一連の古典論のエッセンスが並べられていて、とっつきやすいことは確か。この“語り口”は、まだ人を引き付ける力はあると思う。一番最後には若手詩人の作品を批評するのだけれども、「いってみれば、「過去」もない、「未来」もない。では「現在」があるかというと、その現在も何といっていいか見当もつかない「無」なのです」と吉本がいうとき、「無」的な現在というイメージ以上に、なにか“現在”の奥底まで貫通するような批評言語を見つけ出さないことには、吉本が耄碌していると嗤ったとしても、単なるカラ元気に終わると思うのですけれども。