柳広司『ジョーカーゲーム』(角川書店)レビュー

本日のエピグラフ

 結局のところ、優れたスパイとは、己以外のすべてを捨て去り、愛する者を裏切ってもなお、たった一人で平気で生きて行ける者たちのことなのだ。(「xxダブルクロス」P250より)

ジョーカー・ゲーム

ジョーカー・ゲーム


 
ミステリアス
クロバット
サスペンス
アレゴリカル
インプレッション
トータル45


 思ってみれば、この作者もまた、古処誠二と同じく、現在においてあの“戦争”にこだわり続けている作家なのだった。意図的に乾いた、簡潔な文体が用いられ、さらにプロフェッショナルの矜持に焦点を合わせている分、たとえば横山秀夫的な小説世界を想起させるが、連作の軸を構成するカリスマの造形が、冷酷ながらもむしろシンプルな経済原理をあからさまに体現するものとしてなされているため、かえってミステリアスな存在として屹立している。異なる価値観同士で互いのモラルを相対化するのは常套だとしても、その互いの“悪”の部分がそのまま積もり重なり、ある破局の予感を醸し出しているのは、作者の企図するところだろう。「己以外のすべてを捨て去り」の「己以外」に自己の“名前”も含まれている。このような者たちにとって、果たして“世界”はどのように映じているのだろうか。