ロー・ダニエル『竹島密約』(草思社)レビュー

竹島密約

竹島密約


 
 「解決せざるをもって、解決したとみなす」。日韓国交正常化の五ヶ月前、竹島=独島問題が、「無任所大臣」河野一郎と丁一権国務総理の交わした「密約」で、一応の決着をみることとなる。このあからさまなまでの棚上げ策は、しかし、軍事政権時代が終わり、90年代から文民政権がスタートすると、この「密約」の精神は喪失され、両国の間にふたたび相克が生じることになる――。日韓の最大懸案をめぐる、外交のドキュメント。「請求権問題」は、大野伴睦がフォローした大平正芳金鍾泌の間で、いわゆる「李承晩ライン」とバーターにするかたちで、双方妥結したが、竹島=独島問題においては、日本においては河野に引き継がれることになる。「密約」の存在を知っていた日本外務省は、日韓両国が領有権を主張しあう「交換公文」という形式を提案し、基本条約の付随協定に盛り込まれる。ところが、この「密約」といういわば紳士協定は、「軍人親日主義」に終止符が打たれた金泳三政権誕生により、その「精神」は失われてしまった。以後、韓国の「したたかな」対日外交は、今日にいたっている。韓国社会は、文民政権の「歴史」政策もさることながら、国内経済のIMF改革が、日本離れを加速させた。著者は、若返りした韓国社会のダイナミズムと未熟さ、この両面を指摘するが、日本の政治状況も予断を許さないだろう。いずれにせよ、領土問題の解決においては、“戦争”という選択肢が、むしろありふれた手段であり、北朝鮮はもとより、米中露に囲まれた地政学的状況下で、この選択肢が取りえない以上、まずはこのことを日韓の共通利害として、双方の国民の意識を啓発するしかなかろうと思う。