2008年下半期本格ミステリベスト5

 お正月前に下半期2008年5月〜10月のベストを。後半に入ってやや失速した感が否めず。本格シーンは、世界恐慌に巻き込まれないでくれよお。

ペガサスと一角獣薬局

ペガサスと一角獣薬局



第1位:柄刀一『ペガサスと一角獣薬局』
 シーンが低調のときには、否が応でも安定した実力を持つひとが相対的に浮上してくるものだけれども、それでもこの短編集は、持ち重りということでも、十二分に劈頭にあげるに相応しい。作者のロマンティシズムが“奇想”と“幻想”を架橋し、ミステリーを“小説”へ昇華させた。


造花の蜜

造花の蜜



第2位:連城三紀彦『造花の蜜』
 短編「過去からの声」、『人間動物園』に続いて、またも誘拐ミステリの新境地を開拓した。疑心暗鬼を“謎”の迷宮に変貌させるレトリシズムは、余人の及ぶところではないが、誘拐ものにこういう趣向を盛ってくるとは。そして、それが空洞化する“家族”とその再生というテーマを描くのに、必然的なピースとなっている。ミステリーが、その構造ゆえに一編の“小説”になるっていうのは、こういうことなのよ。
 

黄昏たゆたい美術館

黄昏たゆたい美術館



第3位:柄刀一『黄昏たゆたい美術館』
 柄刀さんのは、もちろんもう一冊。同じ絵画修復師で、北森鴻のはハードボイルドにシフトしたみたい。無論、両方甲乙つけがたく。北森『虚栄の肖像』も、要チェックです。


青銅の悲劇  瀕死の王

青銅の悲劇 瀕死の王



第4位:笠井潔『青銅の悲劇 瀕死の王』
 まあ、作者の「<戯れ>という制度」という問題意識を共有してないひとには、この小説のもうひとつのテーマである80年代批判=日本型ポストモダニズム批判の叙述には退屈されると思うけれども、それでも、「後期クイーン問題」の“構造”にまで踏み込み、ある種の矢吹駆批判とでもいうべきパフォーマンスを繰り広げたのを無視するならば、本作の批判者にとっての「後期クイーン問題」とは、単なる知的意匠=衣装にすぎなかったと謗られても、仕方あるまい。


ジョーカー・ゲーム

ジョーカー・ゲーム



第5位:柳広司『ジョーカーゲーム』
 角川から出たってことは、なんだかブロックバスターのタネにされそうな予感が(笑)。んでも、簡潔な文体と巧緻なプロットが、映像化の食指をそそるのは確かだろう――冒頭の話を除いては(笑)。


アフタースクール [DVD]

アフタースクール [DVD]



番外:監督・脚本 内田けんじ『アフタースクール』
 今年は、これを挙げなければ、納まりが悪かろうて。逆転劇の重層性が、“主役”と“傍役”の相互反転という物語の主題を見事に表象している。この点で、伊坂幸太郎アヒルと鴨のコインロッカー』と通底する問題意識を抱えた作品だけれども、田畑智子がすごくよろしい。*1

*1:ワタクシの近辺で、こないだ上映してたので。