奥泉光『神器―軍艦「橿原」殺人事件― 上・下』(新潮社)レビュー

神器〈上〉―軍艦「橿原」殺人事件

神器〈上〉―軍艦「橿原」殺人事件

神器〈下〉―軍艦「橿原」殺人事件

神器〈下〉―軍艦「橿原」殺人事件



 戦記小説ということで『グランド・ミステリー』の重厚さを想起するなら、さにあらず、諧謔にみちた語り口で、軍艦内部のミクロコスモスが描き出されるので、取っつきやすい、というかひたすら愉しい。ファース仕立てが、偽史日本の存在の耐えられない軽さをトレースしていて、やがて笑うに笑えなくなるが、ラストシーンは、“偽史”を駆動させるあらゆる<物語>からの解放を表象していると考えると、探偵小説的プロットの導入は、散乱する諸々の<物語>の空間において、錘鉛の役割をはたしているのか。