岩田正美『社会的排除』(有斐閣)レビュー

社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属 (有斐閣Insight)

社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属 (有斐閣Insight)



 ヨーロッパ発の社会政策のキー概念を、日本の貧困研究者が、従来の社会的不平等研究の更新を目指して、現代日本の文脈に移して講じる。「社会的排除」というコトバそのものが、EU諸国の社会政策の自己目的化に応じて、理論的に一貫性を欠いており、それまでの貧困、アンダークラス研究の立場から疑義が出されるものの、社会的「参加」からの様々な「排除」の要因となるものの把握、いわば個々人の「複合的不利」に焦点を当てて、現代の福祉国家がフォローできなかった領域における救済、「社会的包摂」を目指す方向性で、研究と政策提案の大枠はまとまった。共通認識として、ポスト福祉国家=工業社会下における「制度からの排除」という問題性がある。「排除」という問題認識に、ややこしさがあるのは、これが、原因にもなれば結果にもなる、ということだろう。「排除」を起点に例えば貧困のような社会的「不利」が個人に発生する場合もあれば、そのような社会的「不利」が「排除」を呼び起こす場合もある。個々に相違する「排除」の様態に対する、「社会的包摂」の具体的有様も、下手をすれば同化圧力に化す懸念もあり、アセット保障などのイギリスの施策も含めて、試行錯誤は続きそうだ。