塩川伸明『民族とネイション』(岩波新書)レビュー

民族とネイション―ナショナリズムという難問 (岩波新書)

民族とネイション―ナショナリズムという難問 (岩波新書)



 大澤真幸ナショナリズムの由来』が未だ積ん読状態、いつになったら読破できるのかと思いつつ、本書を手に取る。「ナショナリズム」が亡霊なのか妖怪なのか、はたまた普遍性を担保する思考なのか、エスニシティとネイション、民族と国民、それぞれの概念の差異と重複から話を説き起こし、ナショナリズムの出自とその世界各領域での展開をコンパクトにまとめ、さらにナショナリズムをめぐる現在の議論を小括する。一般読者にも「ナショナリズム」という問題系を十全に把握できる好著。「ナショナリズム」をめぐる問題性の本質は、あるひとつの同質性をめぐる思想ないし作意が、必然的に限界に突き当たるとき、そこにフィジカルな“境界”が生じてしまうということに尽きる。この“境界”の外側から、“敵”は出来するわけだが、ややこしいのは、外敵を前に「ナショナリズム」を動員する目論見は、軍事的・政治的・文化的な様態を取るにせよ、その自壊の契機を孕むということだろう。グローバリズムを強国の論理と見なすならば、これもまたナショナリズムの変移と見なせるわけで、自壊する宿命から逃れられない。「ナショナリズム」の暴走を矯めて殺す論理を、“われ‐われ”の手で構築するほかないのだろうけれども。