湊かなえ『贖罪』(東京創元社)レビュー

贖罪 (ミステリ・フロンティア)

贖罪 (ミステリ・フロンティア)



 本作で、作者は心理サスペンスの有力な書き手としての地位を獲得したと思う。過去に殺人事件に巻き込まれ、その被害者の母親の呪詛がトラウマとなって、人生が狂わされていく四人の女と、彼女たちを呪縛した当の母親の“告白”によって構成される連作集だけれども、個々の話のプロットが十分練りこまれており(とくに「PTA臨時総会」が秀逸)、読者を翻弄する。彼女たちをある意味倫理的に抑圧することになるこの母親の、“倫理”上の軽薄さを、彼女の語り口のうえから透けさせるところに、作者の真骨頂があるのだろう。