小杉健治『家族』(双葉社)レビュー

家族

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 裁判員制度ミステリに、真打ち登場の感あり。夏樹静子『てのひらのメモ』は、夏樹らしい小説的アプローチで読ませるものの、裁判員制度の教科書というかパンフレット的な印象が拭えない。以前に検察審査会を扱った傑作『検察者』を物した法廷ミステリのベテランも、裁判員制度ものにも挑むが、本作は、十分サスペンスフル、何せ、第五章のタイトルが「評議拒否」だもの。裁判員制度批判でもある本作は、公判前整理手続という急所を容赦なく突いてくるが、そこで複数の人間ドラマを盛りこんで物語に厚みをもたせ、そして逆転劇のあと、興奮のクライマックスへ。P273の「裁判長が少し複雑な顔した」という一文が、制度批判が最終的な焦点を結んでいる場所である。最初期より、従来の法廷ミステリの無機質さを克服した傑作を物している作者が、裁判の市民参加という事態に、己の特質を十全に開花させた小説である。