小島寛之『使える!経済学の考え方―みんなをより幸せにするための論理』(ちくま新書)レビュー



 『現代思想』のケインズ特集でのインタビュー記事での「貨幣=流動性」説批判を読めば、本書を手に取らないワケにはいきません。経済学の数理的アプローチで公理づけられた、幸福、公平、自由、平等、そして正義。「効用」概念については、経済学のはじめのところで習うはずなので、改めて復習するひとが多いと思うけれども、あとは著者の達意の解説で、各概念の数理的根拠とそれが語る社会的意味が把握できる。とりわけジニ係数が小さい(=所得平等的な)社会を望むのは、自分の所得に関して「臆病で自信のない見積もり」をしているということが、数理的に裏付けられ、ロールズの正義論におけるマックスミン原理も、同じ不確実性の問題意識を共有していることが示されているのは重要。そして、ケインズ体系における「不確実性」の意味性が検討されるわけだが、今はまだ「協力」の基盤の崩壊が「不確実性」を呼び込むという視座が示唆されるにすぎない。終章は、著者の数理経済研究の動機をあからさまに語ったものだけれども、現代“社会”の閉塞感の根拠を示してあまりある。