犬走文彦『反経済学講座』(新潮社)レビュー

反経済学講座

反経済学講座



 読んでる途中で何か似たようなタイトルの本のことがしきりに頭に浮かんできましたが、たぶん気のせいでしょう。金子勝のことではありません。ともあれ、反金融工学から始まって、反ミクロ・マクロ経済学で、近代経済学体制に適度なツッコミをいれたあと、反恐慌論でオーストリア学派の見解を引用して、ケインジアンマネタリストマクロ経済学は「勘違いの学問だったかもしれない」とまとめる。もちろん、リフレ派に対するツッコミも、「痛い」のひとこと。ハイエクの示唆した「良い財政政策」を補助線に、乗数効果が高く見込める層やイノベーションの期待できる分野へ資金が流れるようにして、かつ通貨信用を維持することを著者は唱え、「どこかの政権が行うべきだったのは、弱者の切り捨てではなく救済だったのかもしれないと思い当たります」とそろりと皮肉をいう。いずれにせよ、「仮説」には必ず一定の前提条件があるものの、実務屋、投機屋は、結論のみを流用して、お金儲けに邁進するってことですよね。あと、未来は過去の延長であるとの、楽観的な認識が、「リスク」の世界から「不確実性」という妖怪を呼び出してしまうんだということも。