島田荘司・監修 『本格ミステリー・ワールド2010』(南雲堂)レビュー

本格ミステリー・ワールド2010

本格ミステリー・ワールド2010



 いやあ、本書がここまで待ち遠しく思えるとは、思いもよりませんでしたよ。なんだかんだ言っても、別の評価軸を示してくれるのは、ありがたいことです。ギョーカイの方々があの作品をホメるのは当然いいのですが、ホメ方によっては、平成新本格20年の歴史はいったい何だったのか、ってことになりますですよ。よーするに、アレとかアレとかはあの作品よりも格下なの?的な。“歴史”がもう記憶されないのなら、この新本格ムーブメントはめでたくお開き、ということでよろしいんじゃないかと思います。ポスト新本格パースペクティブはいかに設定されるか、という真剣な討議を、これからも本企画には期待したい。黄金本格の選定は、P59にリストアップされた作品を選定者がすべて読んだうえでなされているかどうか、ちょっと気になる。自作解説は毎回とっても楽しみにしておりますです。小森健太朗の巻末解説は、今年に表れた徴候を上手くまとめています。ただ、ロゴスコードの非共有という問題性について、小森はモナドロギーへとつなげるけれども、諸ロゴスコードの(物理的)衝突という事態の可能性が等閑視されているのが疑問。ここにおいて、従来型の探偵小説が失効する可能性と、新しい方法論が生まれ出る可能性があるのではないか。