大沢在昌『ブラックチェンバー』(角川書店)レビュー

ブラックチェンバー

ブラックチェンバー



欧亜純白 ユーラシアホワイト』の問題意識を先鋭化させた大作。作者は現在成立するイデオロギーを「正義」と「強欲」としているようだ。国家という統治機構を超える悪を、“犯罪”として裁断しても、果たしてそれを裁くのは誰か、という問題があり、そこに現在的な「正義」の存立基盤があり、一方で、カネに表象される富の蓄積は、権力基盤そのものであるかぎり、「強欲」であることは必然的な呪縛なのかもしれない。このふたつが結託するのを、作者はあきらかに全体主義に類するものとして描き出しているが、同時に、イデオロギーに回収されないヒーローの行動原理のかたちを模索しているようでもある。