七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』(東京創元社)レビュー

アルバトロスは羽ばたかない

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 日常の謎の定型から脱そうとする作者の意欲は買い。小説の内実が、まぎれもなく作者の倫理性に支えられているのがよく分かる。ただ、ひとの裡に巣食う悪意も、ひとの裡にあるしなやかな善意も、小説のエコノミーに奉仕されている感は否定できない。善悪の垣根を越えた何か不気味なもの、作者が捉えようとしてそれを辛うじて示唆することしかできぬもの。――この小説のタイトルが含意しているものが結末で触れられるが、そこに物語のテーマが収斂していってしまうが、要するに、その技巧の過不足なさが、かえって小説を窒息させていないか。