柄刀一『システィーナ・スカル』(実業之日本社)レビュー

本日のエピグラフ

 「壁面全体に浮きあがる絵を、見るのね」/(…)/『最後の審判』――。(p.278)

システィーナ・スカル

システィーナ・スカル



ミステリアス10
クロバット10
サスペンス
アレゴリカル10
インプレッション10
トータル48


絶品集。ええですわ、一編このくらいの分量が、作者が最高のパフォーマンスを実現するのではないか、と。若き日の御倉瞬介の犀利な推理が愉しめる中篇集。だが、各話長編一本分の持ち重りは確実にある。表題作は、“歴史”と“悲劇”についての物語を、ミステリーの形式で、アレゴリカルに拡げてみせ、書き下ろし「闇の揺りかご」では、“悲劇”のなか生の力をミステリーのかたちに凝集させる。他の二編も、生の最果ての愁情が、異形の論理を観念的に生み出した、その逆説的パトスを、探偵小説として剔出するのに、いささかの揺るぎも見られない。