柳広司『パラダイス・ロスト』(角川書店)レビュー

パラダイス・ロスト

パラダイス・ロスト



 シリーズ第三集。硬質な文体が物語をますます研ぎ澄まして、諜報戦の虚無と非情を浮き彫りにしていくが、勘所にモラリスティックな皮肉を差し挟んで鼻白ませないのは、風格というべきだろう。スパイ活動の非情性が、ギミックの重畳性を昂進させるのは、物語のエコノミーが要請するところだが、その無意味な無底性を回避しているのは、作者が“歴史”に埋もれる悲喜劇のリアリティに焦点を当てているためだろう。