深木章子『衣更月家の一族』(原書房)レビュー

本日のエピグラフ

 「(…)こういう場合は、やみくもに行方を追うより、立ち回り先を当たる方が効果的なんだ。別人になり済ましたからといって、違う人間になったわけじゃないからね。(…)」(p.156)

衣更月家の一族 (ミステリー・リーグ)

衣更月家の一族 (ミステリー・リーグ)



ミステリアス10
クロバット10
サスペンス10
アレゴリカル
インプレッション10
トータル48


 受賞後第一作にして特大ホームラン、こちらの期待度を上回る出来映えである。謎の断片のばら撒き方と錯綜させるプロットが、息詰まるほどのサスペンスを醸し出す、このネタ振りぶり。加えて人物造型の確かさ(個々のパーソナリティの微妙な不安定さを的確に文章化している)と、“社会”なるものを俯瞰する視座を有していることが、探偵小説空間の構築において作者の大柄さを示す根源になっている。なによりも、作品それ自体の高質さによって、探偵役の相貌に深みが増しているのは、理想的ではないか。