松島大輔『空洞化のウソ――日本企業の「現地化」戦略』(講談社現代新書)レビュー

空洞化のウソ――日本企業の「現地化」戦略 (講談社現代新書)

空洞化のウソ――日本企業の「現地化」戦略 (講談社現代新書)



 円高、貿易収支を超えた所得収支黒字、この二つが指し示す方向性は、否応なく投資立国路線なのだが、それでは、この路線に沿って日本企業はいかなる展開をしていくべきなのか、大きく羅針盤を描いたのが本書。円高による産業空洞化論を論破している第一章がとっつきやすく、第二章以下は、実例に即したストラテジックな論及がメイン。日本企業の「現地化」戦略を、金融面で支援するという大枠だけれども、本書では日本市場は将来的に縮小傾向にあるといいながら、労働市場もそうであるとはあまり指摘されていない。いわゆる「空洞化」論は、雇用の減少を危惧するが、実際はあと十年もすれば、労働力人口はついに五割台に突入する。だから、雇用の量より、労働の質、というか労働生産性が問題になるのだが、本書では労働の質を担保するための人材教育の面にまで筆が回らなかった。まあ毛を吹いて疵を求むの類だけれども。