七河迦南『空耳の森』(東京創元社)レビュー

本日のエピグラフ

 「『ゲド戦記』ならしっかり読んだんだけどな。(…)」/「相手の真の名前を知ることで支配することができるってやつですね。(…)」(「悲しみの子」p.125)

空耳の森 (ミステリ・フロンティア)

空耳の森 (ミステリ・フロンティア)



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トータル41


 この短編連作を読んで、作者の追求している主題性がおぼろげに見えてきた。関係性の基底をなす他者信頼と、個々人の固有性が、世界の奈辺で担保されうるか。作者の関心の中心をなすであろう、児童福祉のテーマが必然的に強く打ち出された「アイランド」「悲しみの子」がミステリ的に突出した出来。これからは、教養小説的な日常の謎系とは、ますます一線を画していくように思われる。