天童荒太『歓喜の仔 上・下』(幻冬舎)レビュー

歓喜の仔 上巻

歓喜の仔 上巻

歓喜の仔 下巻

歓喜の仔 下巻



 はっきり言えば、作者の提示する倫理的な境位には、いささかもシンパシーを覚えない。だけれども、作者が、不条理なるものに対して、身体的感度を研ぎ澄まして応えているのは、よく理解できる。この方向性は、紛れもなく文学的賭け金であるけれども、そうであれば、我々がまだ見ぬ世界、ビジョンを見させてほしい、そういう欲求は募る。本作は、過渡期的な産物なのかなあ、と。