松井今朝子『壺中の回廊』(集英社)レビュー

壺中の回廊

壺中の回廊



 小説の上手さは、濃やかな描写もさることながら、それがテンポというか、言葉配りの調子を整えることに基礎づけられており、読んで文章がたちどころに馴染んでくるというのは、他ではあまりない経験だ。昭和初期の、政治と暴力のフィジカルな現実性が迫り出していた時代の、大東京の演劇界で起きた一波乱を通して、歴史の転轍点で孕んだ瘴気の交錯を描き切る。