下村敦史『生還者』(講談社)レビュー

生還者

生還者



 山岳ミステリはツボではないので、どんなもんかと探るように読み始めたが、いやきっちりとミステリとしての構築性を堪能できて大満足。細部の齟齬から劇的に構図の反転が繰り出される醍醐味を味わえるのは、久々なような気がする。登山家たちの内的世界が、フィジカルな地平よりも、心理的な葛藤に焦点を合わせて描破され、新鮮だ。