米澤穂信『王とサーカス』(東京創元社)レビュー

王とサーカス

王とサーカス



 作者にとってのターニング・ポイントが、前年の短編集『満願』に結果的になったのは、自身にとって幸福な事態であったと思う。この短編集自体にバリエーションがあるという意味で将来の作家的戦略性に幅を持たせたというのもあるが、何かを使ってミステリーを書くというスタンスから、ミステリーを使って何かを書くという転換の意思が、一本の長編よりも、もっと明瞭になったからだ。だから、本作は、作者の現在のポジションを如実に示すものとして、持ち重りがある。テーマのシリアスさを全面的に引き受けたのは、ムダな叙情に小説を流さなかったことでも分かる。だから、作者に期待したいのは、「社会」を「反世界のワンダーランド」として捉える境地、アンチ・ミステリの境地である。