大倉崇裕『琴乃木山荘の不思議事件簿』(山と渓谷社)レビュー

琴乃木山荘の不思議事件簿

琴乃木山荘の不思議事件簿



 福家警部補が不完全燃焼気味だったのが、こっちで意外にも本格スピリットを満喫。山岳ミステリ短編連作で、個々の話はタイトにまとめながらも、謎と解明のラインがくっきり際立っていて、作者の筆運びのセンスに感心する。フィジカルに訴求するようなサスペンスはなく、文章も単純に平明さが目指されているのだが、それでいて山の空気感が伝わってくるのは、作者の誠実さのあらわれか。