近藤史恵『わたしの本の空白は 』(角川春樹事務所)レビュー

わたしの本の空白は

わたしの本の空白は



 記憶喪失モノの定番のストーリー展開を、ラブストーリーに重ね合わせるところまでは多くの書き手がやってるが、結末への拡げた風呂敷のたたみ方は、この作者らしいアイロニカルでソリッドな、読み手のカタルシスをお預けにするような印象を抱かせる。自己の回復とアイデンティティー奪回の行程が、すれ違っているところがポイントで、ますます狷介な書き手になったなあ。