2014年下半期本格ミステリベスト5

 2014年下半期(2014年5月〜10月)は、連城三紀彦の遺作長編二本で、なんとか引き締まった感じ。本格ミステリが、ラノベ的なるものとケーサツ小説的スノビズムに引き裂かれている状況があり、さらに、コストパフォーマンスと訴求性を狙った文庫初刊物の増加が、その戦略性がウラ目に出て、一部のベストセラーを除いて文庫再刊物に埋もれてしまうといった現場の混乱がある。一部を除き各社が新書・ペーパーバック版からほとんど撤退しているのが痛いのだ。関係者各位には、再考してもらいたいのだが。


女王

女王



第1位:連城三紀彦『女王』
 この作品は、やはり作者の長編リストの中でも、特異性が際立っている。逆説の論理は、歴史的時間性から超越した位置からなされるものだが、作者はこの作品において、露骨に“歴史”を導入した。果たして、読者は、“逆説”と“歴史”の、“物語”における主導権争いを目の当りにすることになる。要するに、“歴史”なんてものが実在するのか、すべては稗史にも満たない個人的な秘史に堆積する“逆説”の見せる幻影ではないか――ここから、後期連城三紀彦が始まったのだ。


 

密室の神話

密室の神話



第1位:柄刀一『密室の神話』
 復活。アンチ・ミステリーという「神話」を、また裏返したような作品だ。アモルファスな知的探求のスタンスが、今後の戦略性の構築にどう影響するのか、気になるところ。

 


さよなら神様

さよなら神様



第3位:麻耶雄嵩『さよなら神様』
 警官に「さよなら」という方法はまだ見つかっていないけれども、神様には、さよならって言えちゃうのね。無神論者は、無心論者なのかしらん。結末のわかっているミステリーなんて、などということではないにしても。

 


都知事探偵・漆原翔太郎 セシューズ・ハイ

都知事探偵・漆原翔太郎 セシューズ・ハイ



第3位:天祢涼『都知事探偵・漆原翔太郎  セシューズ・ハイ』
 名探偵の道化ぶり、両義性を今現在、最も体現しているシリーズ。連作の各話も、何気にバリエーションに注意を払っていて、作者の職人ぶりが頼もしい。





第5位:鏑木蓮『イーハトーブ探偵 ながれたりげにながれたり: 賢治の推理手帳I 』
 この作品集が、今年一番本格ミステリ的に安定していたなあ、と思うんですよね。本格のツボを押さえて、フツーの突拍子もなく安心して目を丸くできる、そんな本格需要に応えてくれる。版元の営業は、しっかり売ってよね。